盛夏にて 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。



まだまだ早朝、ラジオ体操にも早かろう時間帯だというに、
それは歯切れのいい足音が鳴り響く。
スニーカーだろうラバーの靴底が
アスファルトの路面を力強く叩くそれは、だがだが、
休みの日ほど早起きしてしまうよな、腕白小僧のそれにしちゃあ、
行儀の悪いバタバタしたそれじゃあなく。
ざかざかざかという響きに むしろ規律正しすぎての脅威を覚えるよな、
軍人か特殊工作員の迷いのない行動を思わすような代物であり。
見回した通りの端から端やら、左右に並ぶ煤けた建物にも人の気配は感じられぬ、
こんな時間帯には全く人のいない、どうやら住宅街ではないらしい区域らしかったが、
それにしたって単なるランニングとは思えぬ勢いの疾走には、何かしらの理由があるに違いない。
パーカーのフードを深く下ろし、ボトムは膝丈のスェットパンツという軽装の人物は、
何を目指して駆けているやら判りにくい、それは単調に駆けっておいでで。
ややあって、その足音の主を追ってかそちらは何ともバラバラの無様な足音がやってくる。

「何なんだ、あのガキ。」
「バケモンか。」
「兄貴ぃ〜、犬かなんかに見られたってことにして諦めましょうよ。」
「あほうっ! そんな言い訳が通るかっ。」

コトの初めはもうちょっと暗かった未明の路地裏。
ちょっと大きな声では言えない物品の取り引き中だった
怪しいお兄さんたちが顔を合わせてたところへ、
ジョギング中だか新聞配達だか、
軽快な足音と共に乱入した人影があり。

 『……。』

微妙な間合いの見つめ合いの後、
お邪魔しましたとか失礼しましたとかそんな会釈を残し、
たったか駆けてったその人物を先頭に、
はや小半時ほど奇妙な追いかけっこが続いておいで。
何せ夏の朝は明けるのが早く、
今時分だと四時を回ればもう、ふと気が付けば窓の外が白み出してるほどで。
人気のない辺りばかりを選んで駆け回るその誰かに向けて、
最初のうちは“馬鹿だな逃げおおせられると思ってんのか”と
地の利に明るいこっちを撒けるはずもなかろと高を括っていた追っ手組だったのが、

 「どんなスタミナしてやがる。」
 「つか、本当に土地勘がないのか? あいつ。」

ところどこで“良しお前らは横手から回り込め”と挟み撃ちの手はずを組んでも
思いがけない小道や抜け道へ突っ込まれては、
すんでのところで巧妙に逃げおおせる。
特にキョロキョロするでなし、
当人はただただ無心で駆け回っているだけという風情なのがまた、
演技とも見えずで、それだけにそろそろ不気味だと思えてきた男衆。
かといって、諦めて取り逃がせば、

「警察に駆け込まれたらどうすんだ。」
「う…。」

何の覚えもないのに追いかけ回されましたと、派出所に向かう恐れは大きい。
怪しい取引を目撃されている以上、
その旨を警察に通報されては不味いこと極まりなく。
何でこんな意味の分からない鬼ごっこを延々と続けてんだ俺らと、
頭がそろそろ回らなくなった頃合いを見越されたものか、

 ザザっ、と

不意に飛び立った鳥のような、そんな唐突な気配が間近から立って、
びびくっと揃って身を竦た彼らの頭上を、
港の蒼穹を舞うカモメのように、色濃い影を落として渡っていった存在があって。
何かの事務所か、軒先から張り出した庇の上から向かいの別棟へ
細道とはいえ2mはあった道幅をあっさりと、
屋根から屋根へという格好でひょいとまたぐよに飛び越えてったから物凄く。

「げっ。」

まるで “鬼ごっこはもうおしまい?”と訊いているかのように、
問題の人物がこうまでの至近へ戻って来たのだ。
どう考えても追われていること意識していたその上、捕まるはずないだろう?との余裕でいる証し。
しかもしかも、その誰かさん、
屋根の上を軽快に駆けったその末に、
突き当たりに見える数階建てのビルの壁を避けずの、むしろまっしぐらに目指すと、

 「久蔵殿っ!」

誰だろうか屋上に見えた人影がパッと投げおろしたロープの先を受け止め、
ひゅんと宙にて弧に舞わせてからという鮮やかな所作で手へと巻き付け、

 「…。」

ぐんと引いて手ごたえ確かめてから、今度は垂直に駆けだしたから恐ろしい。

 「ハイパーレスキューかよ。」

間近になって気づいたが、どうやら相手は女の子であったらしく、
三階建ての団地風のビルの屋上目がけ、
手掛かりのロープにもあまり頼ってないよな勢いで たかたか軽やかに登ってゆく。

 「だがまあ、あんな行き止まりも同然の場所へ逃げ込むとはな。
  向こうも頭が回ってないらしい。」

さりげなく自分たちも限界が近かったことをこぼしつつ、
数人がかりだった有象無象が、ふらふらしつつも雑居ビルらしい建物へと踏み込んでゆく。
セメント打ちっぱなしという粗末な階段を上り、屋上へ出るそれだろう扉に辿り着けば、
すっかりと昇った朝日を背に、
駆け回って自分たちを引っ張り回してくれた人物が連れの誰かとこちらを向いており。
すらりとしたプロポーションのみならず、
フードを降ろして現れたふわっふわの金の髪や、
息一つ乱してはない冷静そうな、しかもたいそう美人さんなお顔があらわになっていて。
流麗な装飾ロゴつきの服飾雑誌から出て来たかのよな
澄ました美少女だったというだけでも驚きだのに、
その傍らに、
そちらはさらさらという音が聞こえそうなほどつややかなやはり金の髪を肩まで垂らした、
おっとりと優しそうな雰囲気の女子高生が立っており。

 “……え?”

文句の一つも言ってやろうという憤懣が吹っ飛んだほどの、
目が覚めるよな美少女が二人、いきなり降臨とあって。
何が何やら、今度こそキャパの限界、
一体何が起こっているのだと狼狽えて立ち尽くす連中の前へ、
ひょこりとまたまた新たな人物が現れる。

 「おはようございます、皆さん。」

そちらもまた、彼女らと同世代の女子高生か、
先に現れた二人と同様、
あまり特徴はないプライベートブランドのパーカーに半丈パンツとスニーカーといういでたち。
鳥打帽に顔にはごつい仕様のゴーグル装着という、
顔を出さない変装のつもりか、何だか物々しい拵えの、だが小柄な女の子が現れて。
もうもう何なんだこの流れと、暢気にも呆れた顔ぶれがいたものの、

 「…何だ、そりゃあ。」

まだまだ何とか警戒心が残っていたのだろう、
最後に出て来たお嬢さんが手にしていたものへと
嫌な予感をありあり浮かべて眉を寄せたお兄さんがいて。
得てして言えば、洗濯ばさみを金属で作ってみたよなごっつい代物。
持ち手の部分には厳重にラバーが巻かれてあり、
トングのようになった先っちょは使いこまれてかやや煤けて黒い。
どっかで見たことがあるようなそれ、両手に一つずつ持ったお嬢さん、
そのそれぞれにつながるコードを避けつつ後ろずさるのへ、ついつい追うようにした何人か。
注意力が散漫だったため、
びしゃりと水が撥ねてから水たまりへ踏み込んだと気が付いたときにはもう遅い。

 “あ、そうか。バッテリーが上がったときなんかに使う…。”

電気関係のプラグじゃあなかったかと、気が付いたときにはもう遅く。

 「大した電圧じゃあないから心配は要りませんよ?」

にんまり笑ったお嬢さんが、小さな手には大きすぎる手袋の指をパッと広げれば、
万有引力の法則にのっとり、
コードの付いたクリップが足元へと落っこちる。
え?え?え?と眺めるしかなかった顔ぶれへ、
次の瞬間、

 「「ぎゃぁああああぁぁぁああ…!!」」

バツンという音がしたほどの電圧が、水たまりへと放電されたらしく。
それが流れ込んで来たのだろ、何とも言えない悲鳴を上げて、バタバタと男衆が引っ繰り返る。
生身へ電気を流すなぞ、何て残酷なという所業で、
踏み込んではなかった面々もその場へへなへなと座り込んでしまったが、

 「何ですよう、
  自分たちだって何人がかりで非力な少女へ掴みかかる気でいたものやら。」

それに、このビルのコンセントへ繋いでたくらいです、
放電した瞬間にブレーカもあっさり落ちてますって、と。
まだ水たまりに浸かっているクリップを引き上げると、
念のためにとコードを引き抜き、遠くへ抛ったひなげしさん。
大の男が大仰なと、自分が極悪非道のようと言われた気がしたか、
判りやすくもぷんぷんと怒っておいでで、

「夏休みのイベントにって、駅前商店街の有志で、
 此処の空きビル群を使って迷路を作る計画でおりますのに、
 勝手に入り込んで何やら悪さしていたあなた方が悪いんですからね。」

合法ドラッグ何て言い方、今はしちゃあいけないんですのよ?と、
彼らが扱っていた怪しい物品もきっちりチェック済みの強かさも健在で。
そして何より、

 「いい加減、通報するって段取りを覚えてくれないか。」

流石にさほど場末でもなかったため、
朝っぱらから何か妙な鬼ごっこしているんですがという通報が入り。
所轄署の担当署員と共に駆け付けた佐伯さんが、一番気の毒だったかもしれない、

「え〜?」
「何のお話ですかぁ?」
「一向に判りません。」(棒読み)

「……っ#」

相変わらずなお嬢さんたちだったそうでございます。


  
残暑お見舞い申し上げます。





   〜Fine〜  18.08.13.


 *そっか、もう残暑なのかぁ、相変わらず災害級に暑いけどね。
  高校球児たちが足がつったりして倒れているのが気の毒で。
  そして高校総体。
  何か妙な事態が勃発したんで扱いにくいったらなくってねぇ。
  何でしょうか、あの一昔前の危ないおっさんみたいな某会長。
  (大阪のミナミには一時期ああいうおっさんが履いて捨てるほど居たそうですが…。)
  あれで男気むんむんのつもりだったか、何より何で周囲は止めなんだんだ。
  世界に向けて大恥かいとるぞ、日本の拳闘界。

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